二人の研究者(仮)#9

研究背景#3

はやし まさし
color pencils

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9時55分。
この時間に来ると、ちょうど学内周遊バスが正門から出る。二限目の講義に合わせて学内の各施設に万遍なくアクセスできるので非常に便利だ。
もちろんバスの時間に合えばの話だが。
通常であれば利用者が多いため、いつも3、4台のバスがほぼ同じ時間に出発し、連なって運行する。ルートもいつも同じ。ほとんど鉄道みたいなものだ。
今は春休みのため、バスの運行も少ない。
バスに乗り込み、座席に座ることができた。
列車が5分以上遅れるとバスに乗れないが、幸いにして今までそうなったことはない。優秀な路線だ。

発車までぼーっと待っていると、守衛がバスに乗り込んできた。誰かを探しているようだ。
この正門の守衛はルールやマナーに対して厳しいと有名な人物なのだそうだ。挨拶くらいしかしたことはないから本当のところは知らないが、新学期時期にはこの堅物守衛に説教されてバスに乗り遅れ、講義を遅刻する学生がそこそこいるらしい。
フレッシュマンはそんな大学のルールを知り、大人になっていくのである。もちろん大人は歩いていくよりはマシだと考えるので素直にルールに従うのである。
「佐藤先生!」
そんな事を考えていたら突然、自分の名前を呼ばれてびくっとする。
同乗者のほとんどがこちらを向く。それらの中には他に先生と呼ばれるような立場の人間がいそうにはない。
知らないうちになにかやらかしたのか?まさか大学の職員にまで説教はないだろうとは思うが…。

目が合い、こちらに向かってくる。
「失礼します。竹内先生から、佐藤先生が大学についたら、専攻棟にまず来て欲しいと伝えてくれと仰せつかりまして。」
「あ、ああ、ありがとうございます。でもなぜ…?」少し挙動不審に見えたかもしれない。
「毎日この時間のバスにのるはずだからとお聞きしまして。佐藤先生は携帯電話はお持ちではないから…。と。」
「なるほど。わかりました。専攻棟ですね。」
「はい。」
ふと思ったことが口に出る。
「守衛さんは、そんな小間使いのようなお仕事もされるのですか?」
「えぇ、まぁ…。」「竹内先生には少々借りがあるものですから…。」
口ごもりながらもそう言っている間にバス出発の合図があったため、あわてて守衛は降車した。
「なるほど。」とは言ったものの、本当のところはわからなかったがあまり詮索しないことにした。

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