二人の研究者(仮)#12

研究背景#6

はやし まさし
color pencils

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「佐藤君…。話しぶりからまさかとは思ったが、小林先生が亡くなられたことを知らないのか?」
「!?」
今度は言葉は理解できたが、思考がついていかない。
小林陸が亡くなった!?
「佐藤くん。研究ばっかりやっておらずにたまにはテレビや新聞を見たほうがよいぞ。」
いや、ちゃんと見ていますよ。と言いたいが声に出なかった。
代わりに竹内先生の口から声が出る。
「まさか本当に知らなかったとは…。あの発表から一週間と経たずに亡くなられたそうだが。どうやら実験中の事故らしい。」
そう言いながら部屋を出ていった。

専攻長はまた一から説明するのかと少しだけ呆れた様子で、だが丁寧に説明してくれる。
「若いながらも研究のリーダーを失くしたGI社ではひとまず一時的に研究をストップしているらしく、しかし研究を続けたい気持ちはあるらしい。あそこはいろんな事をやっているからな。とはいえ研究を続けられるような人員がいない。」
「そこで、GI社はコンペをすることにした。」
「コンペ?」
「今から五年以内にこの分野でめざましい成果を出した一つの研究グループに対して、以後共同で研究するための資金、設備、研究員の提供とそこから出た研究成果の山分け。だ。」
一息ついて、続ける。
「そこで、時空間工学分野の研究も進めているこの大学もコンペに参加することにした。コンペへの参加条件は、一時的にGI社で解体した研究グループ員の受け入れと教育。ということだそうだ。」
「はぁ…。」
「私もあまりピンと来ないのは正直な所だ。」
こちらの様子を見てか、いつの間にか部屋に戻ってきていた竹内先生が共感する。
共感されても、ピンと来ていないのは”そこ”ではないのだが…。
構わず説明が続く。
「これに乗っかって、しかもコンペに通れば本学としても意味は大きい。」
言っていることの理解はできる。頭は少しだけ切り替わったようだ。
「上の方々の意向ですか?」
自分には関係無い事だと思いながら聞く。ワケがわからなさすぎてこんな質問しかできない。
「学長はやる気満々だよ。何かと反発したい副学長は、『人が亡くなっているのに金儲けの話か』云々と言っているそうだが。本心はまんざらでもないらしい。」
「そこで、君たちにお願いをしたいのが、このコンペでトップが取れるような研究成果と、条件であるGI社研究員の受け入れ。というわけだよ。」
「この件は、学内で一番最初に声を掛けてもらえた。無理なら他の研究室に回すそうだ。ただ、この大学に他にこんなことができる研究室があるとは思えないがね。いずれにせよ、私としては前向きに検討して欲しいと思っているよ。」
立て続けに言う。

「これだよ。」
部屋に戻ってきた竹内がとある新聞記事の切り抜きを見せながら言う。
そこには『GI研究員 小林さん訃報 人類の夢は消えてしまうのか』と見出しが書かれていた。亡くなってから数日の記事らしい。死亡の事よりも研究成果と才能を惜しむ内容らしかった。
「ここの事務に学術関連の新聞スクラップが趣味のやつが居いてね。言えば大体の記事が出てくる。」
去年の12月18日の記事だった。この日の新聞も読んだはずだが見落としていたのか? 本当に死んだのか…。
「そういうことだ。よろしく頼むよ。」
未だ半信半疑な様子が伝わったのか、専攻長は最後にもう一度、念を押すように言った。

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